第1章

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「相島くんって、七月生まれなのかな」 ようやく口を開いた篠原は、そんなことを問いかけてきた。 予想だにしない言葉に、俺は思わず「はぁ?」と声をあげてしまう。 俺の誕生日は七月三日。大当たりだ。 「そうだけど……え、なんで知ってんの?」 「名前」 篠原は短く、そう答えた。 それだけで分かるはずもなく、俺の頭は疑問符で埋まっていく。 「相島って名前で分かるのか?」 「それは苗字。……相島くん、悠里って名前だよね」 まさか、篠原に名前を知られているとは思わなかった。 驚きのあまり言葉の出ない俺をよそに、篠原は言葉を続ける。 「七月はドイツ語でユーリって言うんだ。だから、ひょっとしたらと思って。良い名前だね」 それだけ言うと、篠原は落ち着いた声で詩を読み始めた。 雪がどうとか言っているが、俺の頭には全く入ってこない。 今、何が起こったんだ? 篠原が自分から話しかけて、しかも俺の名前を褒めた。 あの、無口で不愛想な篠原が。 今まで、話したことなんてほとんど無いのに。 胸の辺りが急に苦しくなってきて、俺は窓の外に目を向けることで誤魔化した。 詩を読む篠原の声は、意外と綺麗だった。
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