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「相島くんって、七月生まれなのかな」
ようやく口を開いた篠原は、そんなことを問いかけてきた。
予想だにしない言葉に、俺は思わず「はぁ?」と声をあげてしまう。
俺の誕生日は七月三日。大当たりだ。
「そうだけど……え、なんで知ってんの?」
「名前」
篠原は短く、そう答えた。
それだけで分かるはずもなく、俺の頭は疑問符で埋まっていく。
「相島って名前で分かるのか?」
「それは苗字。……相島くん、悠里って名前だよね」
まさか、篠原に名前を知られているとは思わなかった。
驚きのあまり言葉の出ない俺をよそに、篠原は言葉を続ける。
「七月はドイツ語でユーリって言うんだ。だから、ひょっとしたらと思って。良い名前だね」
それだけ言うと、篠原は落ち着いた声で詩を読み始めた。
雪がどうとか言っているが、俺の頭には全く入ってこない。
今、何が起こったんだ?
篠原が自分から話しかけて、しかも俺の名前を褒めた。
あの、無口で不愛想な篠原が。
今まで、話したことなんてほとんど無いのに。
胸の辺りが急に苦しくなってきて、俺は窓の外に目を向けることで誤魔化した。
詩を読む篠原の声は、意外と綺麗だった。
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