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「相島ーっ」
目の前でひらひらと手が振られ、俺はハッとして声の主を見た。
ツンツンとした明るい茶髪にヘアピンをつけた男子――友人の牧だ。
牧は俺の顔を覗き込み、手にはコンビニのビニール袋を持っている。
「なにボーッとしてんだよ。昼飯食おうぜ」
ニッと八重歯を見せて笑うと、牧は俺の隣に座った。
先程、篠原が座った席だ。
にこにこと笑顔を浮かべる牧の姿を眺めてから、俺は小さくため息を吐く。
「……牧って悩み無さそうだよなぁ」
「え、サンキュ」
「褒めてねーよ」
「えー、褒めてくれよ! 俺は褒められて伸びるタイプなんだって!」
「それなら縮んでろ」
くだらない会話をして、笑いあう。
しかし、俺はふと視線を逸らしてしまった。
篠原は、いつもどこで昼飯を食べているんだろうか。
教室を見まわしてから、篠原の姿がないことを知って少し残念に思ってしまう。
そんな俺を見て、牧はにやりと悪戯っぽく笑った。
「おやおや、誰狙いなのかな? まさか、クラスのマドンナ綾瀬とか?」
「違ぇよ、ばーか」
素っ気なく答えると、俺はメロンパンをかじりはじめる。
「ちぇっ」と言いつつも旨そうに焼きそばパンを頬張る牧を見ながら、俺はぼんやりと考えていた。
いつか篠原に話しかけてみようかな、と。
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