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「あら、今日は早かったのね」
家に帰り着きリビングに向かうと、母親が目を丸くしてそう言った。
いつもは授業が終わっても真っ直ぐに帰ってこない俺だ。当然の反応といえるだろう。
俺は「まあ、ちょっと」と適当な返事をしながら軽い鞄をソファの上に置く。
それを聞いた母親も、「あらそう」なんてのんきな返事をしただけだった。
冷蔵庫から麦茶のボトルを取り出しながら、ふと、篠原の言葉を思い出す。
コップに注いだ麦茶を一口飲んでから、俺は口を開いた。
「なぁ、俺の名前って七月生まれってところから来てるの?」
「そうよ、お父さんが決めたの」
そう言う母親は何故か笑みを口元に浮かべている。
ひょっとすると、嬉しいのかもしれない。
「まさか悠里から聞かれるとは思わなかったわ。どこで知ったの?」
笑顔のまま問いかけられて、俺は言葉に詰まってしまった。
『――良い名前だね』
少し俯きがちな顔を、落ち着いた声を、柔らかで優しい言葉を思い出す。
思い出す内にじわじわと顔が熱くなってきて、俺は残っていた麦茶を急いで飲みほした。
「……秘密」
隠すほどの事じゃないのは分かってる。
ただ、なんだか上手く言葉に出来なくて、俺はそれだけ言うと鞄を持ち部屋へと逃げ込んでいった。
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