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その夜、俺はよく眠れないまま朝を迎えた。
何度も大きなあくびをしながら、遅刻ギリギリの時間に学校へたどり着いた。
教室に足を踏み入れようとして、小さく心臓が跳ねる。
篠原の横顔が、目に入った。
自分の席に座っている篠原は、誰とも話すことなく静かに本のページをめくっている。
クラスメイト達も、そんな篠原に視線を向けようとしない。
同じ空間にいる。ただ、それだけだ。
ぎゅっと拳を握りしめてから、俺は足を踏み出した。
心臓の音がやけにうるさくて、他の奴にまで聞こえそうだと思ってしまう。
必死に足を動かし、俺は篠原の前で立ち止まった。
篠原は本から視線を上げると、真っ直ぐに俺を見つめ返してくる。
見透かすような目。
それが、昨日ほど嫌だと感じない。
「あの、さ。今日、一緒に昼飯食わねえ?」
絞り出した言葉は、30点といったところか。
篠原は目を丸くして数回瞬きする。
その間の短い沈黙すら耐えられなくて、俺は言葉を続けた。
「こ、この前の詩! あれ、読んだけど意味が分からなかったから、教えてくれないかなーって」
この言い訳はさすがに苦しかっただろうか。
反応が怖くて視線を合わせられずにいると、落ち着いた声が聞こえてきた。
「俺でよければ、喜んで」
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