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「だからオリンピック! 東京でやるんだよ! さっき決まったんだよ! よかったねえ!」
ああ、そういえば今朝だったのか。麗はやっと思い当たる。
今年は2013年。7年後のオリンピック開催都市決定投票がブエノスアイレスで行われていた。
投票結果がわかるのが東京では朝というわけで、巷では盛り上がっていたようだが、残念ながら彼の中ではまったく盛り上がっていない出来事だった。
「……今何時だ」
わかっていて時間を問う。
「えっとね、朝の6時前!」
打って響く鐘のように、愛美の答えは単純明快だ。
「そんな時間に起きてTVを観ていたのか」
「うん、だって気になるんだもん! だってオリンピックだよ、気にならない方がどうかしてるよ!」
どうかしてるよ! は彼女の常套文句だ。
彼女は新しいもの、その時々でブレイクしているものへの感性が著しく発達している。先日も曇りの中流星群を観るんだと駆り出され、雨が降りそうな中、ブルームーンをチェックするんだと乗り込まれた。
気にならない方がどうかしてるよ! といつも愛美は言う。
一般サラリーマンとは違い、自由業に近い身の上だから、時間に融通が利くと思うのか、彼女は容赦しない。時には休ませて欲しいと思うこともある。
けど、律儀に付き合うのは麗だ。
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