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「これから何が起きるだろう、わくわくしてくるよ! 麗はどう? ロンドンオリンピックもすごーく盛り上がったでしょ。あんな感じに東京もなるのかな、見てみたいよね、ね??」
「ああ、多分な」
「一緒に、見ようね!」
「そうだな」
生返事のノリで麗は答える。
そう、気楽に答えたつもりだった。
瞬間、愛美からの言葉が途切れ、息を吐く様子がうかがえた。そして。
「麗。その頃……私は、もう……大人だよ?」
一気に言い切り、電話は切れた。
発信音を耳に、受話器を持ったまま麗はしばし立ち尽くした。
ツーツーと発信音を垂れ流す受話器を下ろすのと同時にTVを点ける。
愛美の言う通り、どのチャンネルもオリンピック招致成功の報道で埋め尽くされていた。
もし、落選していたら。
静かな日曜の朝となっていたのだろうな。
報道を聞き流しながら、とある女性グループのインタビューが耳に飛び込んできた。
「7年後には自分の子供と一緒にオリンピック観たいです!」
まだ独身ですけど! と急いで付け加える彼女たち。
思わず苦笑した。
この7年間の間に、若者達は大急ぎで家庭を持ち、子作りをし、思い出作りにいそしむわけだ。少子化対策の思わぬ追い風になっていいではないか。
煙草を手にし、ライターで火をつける瞬間、電話を切る間際に言った愛美の声が蘇る。
もう、大人だよね?
今、中学生の彼女の7年後は大学に通う年頃になっている。その頃、彼女の母は夫となる男と将来を考えた。
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