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「あ、そうだ。ちょっとそこの変態。しょうがないので、あなたに選択権をあげます」
「え、なになに? 交際か結婚か、とか!?」
「ちょっと何をほざいてるか理解できませんね、このド低能が。そうではなくてですね、あなたの呼び方について、ですよ」
(言い様はアレだが……ナナのやつ、もしかしてやっと拓二に対してマトモな扱いをする気になったのか?)
まあ、軋轢が減る分には一向にかまわないな、と紅井は一瞬そんな風に思ったが、
「呼び方? よしじゃあここは無難に『お兄ちゃん』でお願いするよ」
そしてまた、まだ提示されてもいない選択肢を勝手に選ぶこの馬鹿も然りだったが。
「『ゴミ虫』か『変態』か『産業廃棄物』か『愚物』、この中から選ばせてあげます。私に感謝しながら選びなさい」
「こんなの絶対おかしいよ」
紅井の予想と拓二の期待も虚しく、返ってきたのはやはり毒だった。
(──しっかし。よくもまあ、ナナもあそこまで罵詈雑言がすらすらと出てくるもんだなぁ……)
紅井がふと拓二を見てみると、その姿からは、度重なる精神攻撃による被害故の悲痛さが滲み出ていた。
「あ、時にご主人様」
変態へ向けた軽蔑の表情から、急転して神妙な面持ちになったナナが紅井にそう言った。
「ん、どうした? ナナ」
「お、真剣なナナちゃんも悪くないかも。表情のギャップがグッドだね! 僕と籍入れよう!」
「とりあえず不愉快なんで黙ってるか死ぬかしててもらえます? そもそも気安く名前で呼ばないでください、この変態。虫酸が走ります」
あれだけ毒を浴びせられてもめげずにナナへのアプローチを再開する変態だったが、当然のごとくナナには絶対零度の態度であしらわれていた。
何というか、もはやここまでくると、拓二には(ある意味)尊敬の念すら抱いてしまいそうになる。
どうでもいいが、ナナの拓二への呼び方は「変態」に落ち着いたのだろうか。
そして拓二、もとい変態の意見は、おそらく今後いっさい尊重されなさそうだ。
選択権なんて最初から無かったのだ。
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