70人が本棚に入れています
本棚に追加
時は7月17日。水曜日。
夏休みを明明後日にひかえた日である。
ある所に、愛犬を愛して愛してやまない少年がいた。彼の名誉の為にあらかじめ言っておくが、彼は決してケモナーだとかいうわけではない。
「うん、疲れた」
と、学校から帰ってきて2階の自室に入るや否やそんな言葉をこぼしたのは、赤みがかった黒の髪と瞳のその少年──紅井(くれない)一矢(いちや)。
ルックスは中の上・成績中の中・(帰宅部のくせして)運動学年トップクラスなどといった、あまり主人公らしからぬハイスペックな少年である。
「だがそんな事はどうでもいい! こんなときのオレの癒しが、今ここにはいるのだッ!」
彼は、眼前に佇む、小さくて真っ白な毛並みの犬──言わずもがな愛玩動物(ペット)だ──を見据えながら、疲労感を払拭するかのような調子でそう言った。
若干地の文を読んだようだが、気にしたら負けである。
「な! ナナ!! やっと学校終わったよ~~~~!! 会えなくて寂しかったよな~!」
紅井は、物凄い迅さを誇るスライディングでその小さな白い犬に近寄ると、表情を緩ませ、それに愛おしそうに頬擦りをした。
その『ナナ』と呼ばれた白い犬は、紅井の愛犬である。
ナナ。紅井の愛犬で、性別は♀。犬種はチワワで、綺麗な真っ白の毛並みを誇る。紅井には、まるで家族のように可愛がられている。
今さらだが、ナナが紅井の部屋で飼われているのには理由があった。それは、両親も動物が好きなのだが、共働きで家に居る時間が少なく、ナナの面倒をみれないためだ。
ちなみに名前の由来は、紅井曰く「スタンダードかつ語感がイイ響きだから」。
つまりとにかく、彼、紅井一矢は愛犬を極度に溺愛しており、愛犬に対する愛情表現が半端ではないのだ。
「いや~、それにしてもナナの毛フワッフワでかわいいな~~、てかナナ自体かわいいな~~♪ きっと人間になってもかわいいんだろうなぁ~」
そんな、普通の犬なら辟易するぐらいウザい愛情表現を愛犬に行うのが、紅井の日課だった。
最初のコメントを投稿しよう!