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「お茶が入りましたよ、ご主人様♪ あとついでにゴミ虫も」
紅井が呆れ果てていると、お茶を汲み終わったナナが二人のもとにやってきた。
ナナは、お盆に置かれた3つの湯呑みのうちの1つを、ソファーの前に置かれた背の低めなテーブルに──紅井の分なので紅井の手前に──置いた。
その湯呑みには、お茶が多く注がれている。と言うか溢れそうだった。
「はいどうぞ、これはご主人様の分です。愛情がたっぷり入ってますよ♪」
「お、サンキュ」
続いてナナは、2個目の湯呑みをテーブルの──拓二の側に置く。
その湯呑みだけ他2つの湯呑みよりも質素に見えるのは気のせいではないはずだ。しかも、量も3分の1以下という仕打ちである。
「どーぞ、ゴミ虫。憎悪を込めて注いでおきましたよ」
「……もう、馴れたし。悲しくなんかないし」
そう強がる拓二だが、彼の瞳が潤んでいるのを紅井は見逃さなかった。
「なぁナナ……。なんでお前そんなに拓二を毛嫌いしてんだ?」
「別に嫌いってわけじゃないですよ?」
「え? ナナちゃんそれホント!? じゃあ今までのは照れ隠s」
「ただ生理的に受け付けず本能的になんか無理で無意識的に身体が拒絶反応を起こすだけです」
「」
「なるほど。つまり嫌いとかそういう次元を超越してるってわけか」
ナナの拓二への理不尽なまでの拒絶に納得した紅井は、それと同時に拓二が不憫に思えてきた。
そんな紅井がふと拓二に目を遣ると、現実を知った彼は(比喩ではなく)真っ白に燃え尽きていた。上げてから落とされた分、余計にショックも大きかったのだろう。
「……拓二」
「」
試しに呼び掛けてみたが、へんじがない、ただのしかばねのようだ。
「拓二」
「」
「拓二」
「」
やはりへんじがない、ただのへんたいのようだ。
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