第1話:白の同居人

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   ◆   ◆  そして時間はややとんで、翌日──7月18日の木曜日。  夏休みも明後日までせまった今日だが、実はこの日で、ナナと紅井が出会ってから丁度1年になる日だ。  その『出会い』とは、紅井が捨てられていたナナを見つけたことから始まるのだが──それはまた別の話。  時間としては、現在は午前6時。  学生の起床にしては早めの朝だろうが、そんな時間に紅井は毎日目を覚ます。  別にもっと遅く起きても学校には充分間に合うのだが、紅井一矢は余裕をもって登校したい派の人間なのである。  ちなみに。そのためか、登校も「とりあえず時間に遅れない、かつ最低限間に合う程度のペースでゆったり歩いて行く」。それが紅井一矢の基本スタイルだった。 「おはよう、ナナ。今日もいい天気だな」  これは紅井の日課である、ナナへの毎朝の挨拶。  いくら愛情を注いでも相手は犬なので会話を交わすことは不可能だと分かってはいるが、紅井は、種族の垣根を越えたコミュニケーションの心も大事だと考えているのだ。  が、 「はい。おはようございます、ご主人様♪」  しかしどういう訳か、今日は紅井のその呟きに対する返答が存在した。  そして、なんとも不可思議なことに──、その声は紅井の近くから聞こえたのだった。
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