第一節「×××と叫ぶ」

4/18
前へ
/21ページ
次へ
     02      そう、はっきりと答えた羽田ことりとやらは、その直後にまたあたふたし始める。 「って!見知らない人に名乗っちゃうなんて、私の馬鹿!馬鹿!」  辺りは真っ暗で、何もない。  そこには、オレと、このことりとか言う女子が、まるで違和感のあるシルエットとして浮かび上がっている状態だ。  ため息をついて思った。 「なんだ、また夢か」  夢の中にまた夢。  はじめての経験だが、ないこともないだろう。  あたふたしていた女子が、こちらを急に心配そうな瞳で見る。 「おい、どうした?」  そう伝えると、近づいてきて、その華奢な手をこちらの顔にそっと、抑えるように向けた。 「……泣いてるんですか」  言われて、自分の瞳に涙が浮かんでいることに気がついた。  オレは無意識に視線を逸らして差し向けられた手を軽く払った。 「泣いてねえよ」  ことりは「……でも」と呟いて、何か言いたげだったが、言葉を飲み込むように黙り込んだ。  真っ暗な空間にしばらく沈黙が走る。どこかもわからない空間、部屋の電気を消しても、都会に住んでいれば真っ暗な空間など、間接光でなかなか味わえないものだ。 「どこなんでしょうか、ここ……」  所在なさ気に、ことりが言葉を漏らす。  オレはそんな言葉に、仰向けに寝転がって適当な言葉を返す。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加