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02
そう、はっきりと答えた羽田ことりとやらは、その直後にまたあたふたし始める。
「って!見知らない人に名乗っちゃうなんて、私の馬鹿!馬鹿!」
辺りは真っ暗で、何もない。
そこには、オレと、このことりとか言う女子が、まるで違和感のあるシルエットとして浮かび上がっている状態だ。
ため息をついて思った。
「なんだ、また夢か」
夢の中にまた夢。
はじめての経験だが、ないこともないだろう。
あたふたしていた女子が、こちらを急に心配そうな瞳で見る。
「おい、どうした?」
そう伝えると、近づいてきて、その華奢な手をこちらの顔にそっと、抑えるように向けた。
「……泣いてるんですか」
言われて、自分の瞳に涙が浮かんでいることに気がついた。
オレは無意識に視線を逸らして差し向けられた手を軽く払った。
「泣いてねえよ」
ことりは「……でも」と呟いて、何か言いたげだったが、言葉を飲み込むように黙り込んだ。
真っ暗な空間にしばらく沈黙が走る。どこかもわからない空間、部屋の電気を消しても、都会に住んでいれば真っ暗な空間など、間接光でなかなか味わえないものだ。
「どこなんでしょうか、ここ……」
所在なさ気に、ことりが言葉を漏らす。
オレはそんな言葉に、仰向けに寝転がって適当な言葉を返す。
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