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「さあな、夢だろ、こんなの」
矛盾だ。
こんなに感覚がはっきりとした夢なんてないってわかりきっていることなのに、現実とはかけ離れすぎた現象を受け止めきれずにいる矛盾。
真っ暗な天井を見て、ぐるぐるとこれまでの思い出が回った。
オレは何をしてきただろう。いつも否定して、それでも前を向いているつもりでいて、だからいつまでもあんな女々しい夢を見る。
「女々しいでしょうか?」
ことりがその大きな目をまっすぐとこちらに向ける。
「……なんだって?」
おかしい。もしかして言葉に出していたのだろうか。心理を読まれたような気がして、オレはたじろいだ。
「ご家族のことを思って夢に見てしまうことは、本当に女々しいことでしょうか」
オレは仰向けになった身体を急いで起こして、ことりを睨んだ。
「お前……!」
ことりを問いただそうとした瞬間、バン!と、妙な音が突然して、真っ暗な部屋に、小さなスポットライトが灯った。
「な、なに?」
きょとんと驚いて、目を見開くことり。
どうやらこいつもこの空間のことがよくわかっていないらしい。
少し遠くから、チリンチリンと鈴の音がして、それが段々と近づいてくる。
オレとことりはその音が近づいてくる前方を、身体を強張らせて見守る。
本当にやばい時は、声も出ず、身動きもできないんだなって思った。
やがて近づいてくる音が止まった。
その小柄なシルエットは、スポットライトの中心で止まる。
「ああ、めずらしい来客だ」
やけにハスキーなボイスでぼやいてこちらを交互に見た。
「……ねこ、さん?」
ことりが驚いて、口をぱくぱくさせている。
そう、目の前にいるシルエットは、黒猫、どこにでもいる黒猫だ。
でも一つ明らかにおかしいのは、この黒猫が、ナチュラルに言葉をしゃべっているということだった。
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