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03
目の前で黒猫が「くぁ~」と気持ち良さそうにあくびをする。言葉をしゃべる黒猫、オレと隣にいることりは顔を見合わせあって、首を傾げ合った。
「や、やだなあ、やっぱりこれ夢ですよね、す、すみません、おさわが、おさわがせしました」
ことりがぎこちなさを絵に描いたようにパチパチと笑っていない目でこの場を立ち去ろうとする。
「やめたまえ、ここから離れると、戻ってこれなくなるぞ」
またハスキーな声の、真っ暗な空間の中にスポットライトを照らされた黒猫が去り行くことりを止める。
「ええ?ね、ねこさんがしゃべるわけないじゃないですか、せ、生態学的に人間と同じ声質がでるような骨格をしていないんですよ?ゆ、夢じゃないとありえませんよ~」
なんとなくこの場にそぐわない論理性を振りかざすことり。
「うーん……」
オレはしゃがんで黒猫をじっと見つめて考える。
(売り飛ばせば、いい金になるんじゃないかこいつ)
「駄目ーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
そう思った瞬間、ことりが涙目で黒猫をかばう様に抱きしめる。
「う、売り飛ばすなんて、そんな可愛そうなことするくらいなら、わ、私が貰い受けます!!」
ことりが支離滅裂なことを言い出した。
オレは少し深いため息をついて、ことりをじとっとした目で見つめた。見つめられると、ことりは顔を真っ赤にして、けれども強い視線でこちらを見返した。なるほど、こいつ。
「お前、心、読めんのか」
唐突に思ったことを口にした。馬鹿げたことだ、心を読めるなんて。だが、言葉をしゃべり出す猫がいるんだ、もうありえないことでもないかもしれない、所詮夢だしな。
「……なにいってるんですか、そんなこと、あるわけ、ないじゃないですか」
ことりが、それを聞いた途端に力なさ気に俯いてつぶやいた。なんだかその顔が泣きそうで、とても聞いてはいけないことを聞いてしまった気がした。
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