第1章

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身支度を整えて、ルームクリーニングの札を出してから、バーに向かう。 このホテルを気に入っているのは、札を出しておけば時間にかかわりなく掃除してもらえるところ。 それから、景色がいいところ。 バーに気に入ってる酒があるところ。 実家に行ってもいいのに、こっちに戻ってきた時にいつもここを予約している理由を、僕はそう読んでる。 ゆっくりと動くエレベーターを降りて、馴染になってきたバーに足を踏み入れれば、彼はカウンターで先に呑んでいた。 誘っておきながら、待つこともしない。 そんな人。 「何で、ここなの?」 隣に滑り込みながら、部屋にも酒はあるのに。と、言外にそう告げてみる。 「別に…マティーニを呑みたくなった」 カクテルか…確かにそれは、部屋にはない。 「バーのカウンターは苦手なんだけど」 「だから?」 唇の端に煙草をくわえて、にやりと笑ってくる。 当然のように。 この香りがあれば平気だろ? そう言いた気に、スツールに腰かけた僕の背中に、煙を吹きかけてきた。
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