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身支度を整えて、ルームクリーニングの札を出してから、バーに向かう。
このホテルを気に入っているのは、札を出しておけば時間にかかわりなく掃除してもらえるところ。
それから、景色がいいところ。
バーに気に入ってる酒があるところ。
実家に行ってもいいのに、こっちに戻ってきた時にいつもここを予約している理由を、僕はそう読んでる。
ゆっくりと動くエレベーターを降りて、馴染になってきたバーに足を踏み入れれば、彼はカウンターで先に呑んでいた。
誘っておきながら、待つこともしない。
そんな人。
「何で、ここなの?」
隣に滑り込みながら、部屋にも酒はあるのに。と、言外にそう告げてみる。
「別に…マティーニを呑みたくなった」
カクテルか…確かにそれは、部屋にはない。
「バーのカウンターは苦手なんだけど」
「だから?」
唇の端に煙草をくわえて、にやりと笑ってくる。
当然のように。
この香りがあれば平気だろ?
そう言いた気に、スツールに腰かけた僕の背中に、煙を吹きかけてきた。
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