第1章

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いたぶるのは趣味じゃない。 少々のいたずらはそりゃあまあ、楽しいが。 敢えて痛みを与えるなんて。 SM趣味なんてのは俺にとってはあり得ない話。 苦痛を喜びに変えるなんて言うのは、理解に難い。 そう言った時に、かつて、友人の一人がこういった。 「痛いのが好きなわけじゃない。そこにあるのは、全幅の信頼。全面的な愛。 こんなことをしても許されるのかまだ信じてくれているのか、確認しているんだ。 反対に、される方はすべて投げだしているわけだろ。少しでも不信が混じったら、それは事故につながるわけだから」 すとんと、おちた。 それなら納得。 思わぬ相手の全面的な信頼。 それほど大事で無くせなくて、愛しいものはない。 サディスティックな趣味は持ち合わせていない。 けれど。 生身のお前が手の届くところにいる。 本家の仕事に翻弄されて、しばらくは日本を離れていたから、久しぶりのこと。 定期連絡と称して電話で話をしていた時に、結膜炎になったと言っていた。 だから、それを理由にその目を隠した。 ぐるぐると包帯を巻いて、視界を奪う。 ここ数年、とりあえずの形で開いていた輸入雑貨店を任せていた。 税金対策というよりは、俺の手の範囲内にとどめ置くための、理由。 お前が気に入っているのを知っていて、閉店を決めた。 そろそろ形振りは構っていられない。 手元に置くか、手離すか。 選ぶ余地はない。 だから、取り上げた。 本家に手を回して、渋る宗主を口説き落とし、手に入れた。
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