第1章

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なあ、これでも、俺が好きか? ここまでしても、俺を信じているのか? お前はまだ俺が必要か? 何度も何度も確かめたくなる。 奪われた視界に、心細そうな素振りはない。 隣に俺がいるからだと、自負できる。 ソファの前に置かれたローテーブル。 キッチンから運んできたものが、その上に置いてある。 バケットを掴んで、口元に当てた。 「これは…何?」 「パン。お前、キッチンに碌なモンねえぞ」 「今日振る舞ってしまいましたから。どうせすぐに発つのに、買い置きは不要でしょう?」 振る舞ったってのは、あれか。 さっきこの店に来た時の、ホームパーティのようなあれか。 閉店の集まりだとか言ってたな。 自分は碌すっぽモノを食わないくせに、ああやって人に振る舞いたがる。 「口開けろ」 ソファに埋もれるように座る姿。 口では食事をとっていると何度も繰り返していたが、さっき抱えたときにはそれほど肉が増えたように感じなかった。 かろうじて最低限摂取していた、そんな感じだ。 「ほら、口」 口元にパンを押し付ければ、素直にあける。 一口分その口に突っ込んで、ソファから立ち上がった。 もぐもぐと口を動かしながら、俺の気配が遠のいたことに、不安げな様子を見せる。 「…ねえ」 「あ?」 声が届けば、こわばった肩から力が抜けた。 「これ、外していいですか?っていうか、何で必要なのかわからないんですけど?」 ぐるぐると巻かれた包帯。 視界を奪うそれを大人しくまかせておきながら、とってもいいかという。 でも自分では外さない。 「外すなよ」 その一言で済む話。 俺の言うことには基本的には逆らわない。 例え反抗的な言葉を言ってもそれは口だけ。 「でも」 「外すな。結膜炎なんだろ、大事にしとけ」 「もう、治ってますよ。それに眼帯で十分なのに、両目をふさぐ意味が解らない」 「見なくていいから」 「はあ?」 「俺以外見なくていいんだよ。見えちまうなら目をふさいでろ」 「あんた、サイアク」 悪態をつく唇をふさいだ。 口に含んでおいた水を流し込めば、するりと素直に呑み込んでいく。 これを手折ったのはずいぶんと前だ。 堕ちたのはこいつ。 落とされたのは俺。 俺が俺でいるために、手放せない、大事なもの。
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