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なあ、これでも、俺が好きか?
ここまでしても、俺を信じているのか?
お前はまだ俺が必要か?
何度も何度も確かめたくなる。
奪われた視界に、心細そうな素振りはない。
隣に俺がいるからだと、自負できる。
ソファの前に置かれたローテーブル。
キッチンから運んできたものが、その上に置いてある。
バケットを掴んで、口元に当てた。
「これは…何?」
「パン。お前、キッチンに碌なモンねえぞ」
「今日振る舞ってしまいましたから。どうせすぐに発つのに、買い置きは不要でしょう?」
振る舞ったってのは、あれか。
さっきこの店に来た時の、ホームパーティのようなあれか。
閉店の集まりだとか言ってたな。
自分は碌すっぽモノを食わないくせに、ああやって人に振る舞いたがる。
「口開けろ」
ソファに埋もれるように座る姿。
口では食事をとっていると何度も繰り返していたが、さっき抱えたときにはそれほど肉が増えたように感じなかった。
かろうじて最低限摂取していた、そんな感じだ。
「ほら、口」
口元にパンを押し付ければ、素直にあける。
一口分その口に突っ込んで、ソファから立ち上がった。
もぐもぐと口を動かしながら、俺の気配が遠のいたことに、不安げな様子を見せる。
「…ねえ」
「あ?」
声が届けば、こわばった肩から力が抜けた。
「これ、外していいですか?っていうか、何で必要なのかわからないんですけど?」
ぐるぐると巻かれた包帯。
視界を奪うそれを大人しくまかせておきながら、とってもいいかという。
でも自分では外さない。
「外すなよ」
その一言で済む話。
俺の言うことには基本的には逆らわない。
例え反抗的な言葉を言ってもそれは口だけ。
「でも」
「外すな。結膜炎なんだろ、大事にしとけ」
「もう、治ってますよ。それに眼帯で十分なのに、両目をふさぐ意味が解らない」
「見なくていいから」
「はあ?」
「俺以外見なくていいんだよ。見えちまうなら目をふさいでろ」
「あんた、サイアク」
悪態をつく唇をふさいだ。
口に含んでおいた水を流し込めば、するりと素直に呑み込んでいく。
これを手折ったのはずいぶんと前だ。
堕ちたのはこいつ。
落とされたのは俺。
俺が俺でいるために、手放せない、大事なもの。
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