第1章

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地元の秋祭りで舞われている巡業舞。 あれが、本当は正月に年神さまに奉納されてるとは、知らなかった。 大体、正月の夜中に親戚筋だけの集まりがあるっていうのも、知らなかった。 当代を引き受けておきながら、峻利は本当に僕を含め他のいとこ達を『家』の事に関わらせたくなかったらしい。 参加資格のある男衆だけが、総黒五つ紋の紋付袴で本家に集まる。 僕は初参加。 だから披露目も兼ねて奉納舞を舞えと、そういうわけだ。 秋祭りのからはずいぶん前に手を引いていたから、思い出すのに時間がかかった。 今でも舞人をしている崇史に、かなり見てもらったくらいだ。 組舞の奉納のはずだけど、相手は知らない。 決まった振りだし、その場で合わせるのなんて秋祭りではよくあることだから、気にしてなかった。 「え、直面?」 控えの間で反りの大きな三日月刀を二振り、手渡されて、驚いた。 「ああ。相手に合わせてりゃ打たれることもないだろうけど、うかつに動くな。気をつけろよ」 後見として付いてくれていた父親が、僕の着物を手直しする。 袴は腰で履くもんだ、と、位置を直される。 元々の体格が骨細なのと、いつまでたってもつかない貫禄のせいで、滅多に身に付けない着物は借り物のようだ。 「まさかお前が、奉納舞するとはなぁ…」 「僕も思ってなかったよ」 「まあ、しかりやれ」 楽の音が聞こえてきて背筋を伸ばすと、父親が僕の背を叩いた。
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