第1章

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勝手知ったるなんとやらで、風呂場に向かう。 その足だって、ガクガクだ。 なんとか風呂場にたどり着いて、息をつく。 無駄に広い本家の風呂は正月用だったのかな、なんて関係ないことを考えながら、羽織紐に手をかける。 震えて、金具が外せない。 情けない。 父親は負けてなかったなんて言ったけど、こんな状態じゃそんなはずない。 のんちゃんの鋭い視線に、押されっぱなしだった。 すべてを見透かすような、眼光。 知っていたきがする。 あの人は本当は、とても激しい人。 あの熱を向けられて、正気でいるなんて、無理だ。 「…よお」 からりと引き戸が開けられて、のんちゃんが入ってきた。 「なかなか、おもしれー趣向だったな」 「悪趣味だよ」 「殺気をかくさないお前も、そそるな」 「…信じらんない、なにそれ」 「コーフンしたろ?」 お互いに身につけた黒紋付。 さっきの余韻で、体が熱い。 「なあ、ゆき?」 後ろからのんちゃんが僕を抱き締める。 ぐり、と太ももに当たる感触。 「や…」 左手で僕を拘束し、右手は袴の横合いから差し込まれる。 身をよじっても力が入りきらない。 いつも、ただでさえ力負けしてるのに。 「ほら、お前もコーフンしてる…和服ってのは、そそるよなぁ…」 「ばかっ…!…ぁっ…ちょ、耳やめ…」 「耳だけやめりゃいいのか?」 「屁理屈…!」 袴の中に侵入してきた手が、着物の合わせ目を開く。 さっきの舞からすっかり反応しきっている僕は、首を横に振るのが精一杯で、その手をはねのけることができない。 さわさわと、のんちゃんの右手が僕を触る。 「…んん……」 腰を揺らして、体が答えそうになったとき、がん、と扉が外から叩かれた。
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