序章

2/2
前へ
/69ページ
次へ
 この村の地主の家には、いわゆる箱入り娘がおり、それはもう大層可愛がられていた。  親である地主曰く、「外には欲望と穢れ(けがれ)が満ち溢れておる」と、その娘を一度も外に出さずにいたほどだ。  窓から見える娘の姿は、雪のように白い肌と一糸乱れぬ細く長い黒髪。 着物は色とりどりの朱(あか)を主にした綺麗な布地で、白い素肌によく映える。  年の頃は十代前半といったところだろうか。 お手玉と歌が好きな娘で、いつも決まった時間に窓際で遊んでいる。 ちゃっ、ちゃっ、と、お手玉が手に乗るたびに音を出し、それに合わせて娘は歌う。  透き通るような、まるで小鳥のさえずりのような……、少女ながら大人びたその声は、あまりに美しく妖艶(ようえん)で、この時間を楽しみに男衆が集まってくるほどであった。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加