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週末の昼下がり。真っ青な空の下。園庭の片隅で、人目を避けて木陰に隠れパイに噛り付く私達。
「…なんか、面白いね。この光景」
ポツリと呟く私。
「確かに。…誰にも見せられんな」
先生は苦笑いを浮かべながら、最後の一口を口に入れた。
そう!
誰にも見せられない!
超エリートドクター高瀬正臣が、病院の園庭でヤンキー座りでブルーベリーパイを食べてるなんて…
「何だよ。なに一人でにやけてんだよ」
「…いえ……超ウケると思って」
堪え笑いが止まらない。
私は片手に持ったパイを落としそうになりながら、体を揺らして「クククッ」と喉を鳴らす。
「お前、ムカつくな。一体誰のせいでこんな状況になってると思ってる」
先生は私を見据えて、これ見よがしに大きなため息をついた。
「…はい、無鉄砲な私のせいです」
「当然だ!」
人差し指を鼻に付けて「てへへっ」と笑う私に、先生が一喝入れた。
パイをペロリとたいらげた咲菜ちゃんは、オレンジジュースのペットボトルの口を咥えガジガジと噛みながら無邪気に笑っている。
洗礼された空気の流れの中に体を浸しているように、爽やかな風がそよそよと吹き流れ。太陽の光に手を伸ばす木々の葉は、喜びを歌うように、鮮やかな新芽を風に揺らす。
「この後、そのまま帰るのか?」
立ち上がった先生が、白衣の裾を掃いながら言った。
「うん、帰りに公園で少し遊んで…スーパーで夕食の買い物してから帰ろうかな。お米も買いたいし」
咲菜ちゃんの口の周りに付いたクリームを拭き取りながら、私は彼を見上げる。
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