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「5時まで時間潰せるか?」
「えっ?」
「俺の後の当直医が同期の奴だから、今日は定時で帰る。米も買うなら買い物に付き合う。あと一時間半…待てるか?」
先生は腕時計に視線を落とした後、私に目を向けて首を傾けた。
えっ…
一緒に帰ってくれるの!?
「待てる!何とか、その辺で時間潰す!あっ、先生が乗せて行ってくれるならお酒も買いたい!スーパーの近くに新しい酒屋さんがオープンして、スーパード〇イ500mlの6本入りが超お買い得なの!」
彼の心使いが嬉しくて。…ううん。それより、無理に押しかけたのにも関わらず、一緒に帰ろう言われたのが何故だかとっても嬉しくて。私は弾けんばかりの声を放った。
「500mlね…了解」
顔一杯に満悦を貼り付けた私を見て、彼は目尻を下げて微笑んでいる。
「…そう言えば。時間潰しに小児科のレク室を覗いて来いよ」
「え…小児科のレク室?」
「昼頃、海斗くんが小児科に向かって歩いて行くのを見かけた。もしかして、小児科に居るかも知れない。あの子、退院してからも週末に入院してる子供と遊んでるみたいだぞ」
先生は淡々と言いながら、樹木の間から見える小児科病棟のある南棟の方へ視線を伸ばした。
「そうだったんだ…」
海斗くんが…
「あの子、入院してる子達のお兄ちゃんみたいな存在だから。そうか、週末に遊びに来てるんだ…」
「悪戯好きの悪ガキだけど面倒見のいい子だ。入院してる子供の気持ちを一番理解できるのは、入退院を繰り返してる子供だからな」
先生は私に視線を戻し、澄んだ笑みを向ける。
「そうだね、私もそう思う。小児科のレク室に行って来る。あそこなら絵本いっぱいあるし、咲菜ちゃんも退屈しないから」
私は笑顔を返し、咲菜ちゃんの手を握り直して頷いた。
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