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…どうか、知ってる人に会いませんように!
そう祈りながら、私は咲菜ちゃんと手を繋ぎ小児科病棟のある南棟の廊下を歩く。
幸いにも小児科のある南棟には縁遠く、行き交う白衣のスタッフ達の顔はみな知らない顔ばかり。すれ違いざまこちらに目を向けた者もいたが、直ぐにその目線は私から数十センチ下に下ろされた。
やっぱり目立つよね…咲菜ちゃん。
海外のキッズファッション雑誌から抜け出て来た様な容姿だからな…当然、目を引くに決まってる。
早く病棟に入り込んでしまわねば!「顔も体も凹凸の無いこの平々凡々な日本人から、どうしてこんな子が生まれるの?」と言った、本来ならば浴びる必要の無い不平の視線を向けられる前に!
突き当りを右に曲がれば、小児科病棟だ!―――っと思ったその時。左側にある渡り廊下に気配を感じ、吸い寄せられるようにして目を向けた。
視界に入り込んだのは、並んで歩く白衣の女性二人。
――か、香川さんっ!?
右側のナースを見た瞬間、体が硬直し、心臓が飛び出しそうな程の大きな拍動を打った。
「…じゃ、無いか…」
目を凝らして見ると、体格と髪型は似ているが、顔は全くの別人。
「はぁ…心臓止まるかと思った…」
思わず力を入れてしまった手を緩め、深い息と共に声を漏らした。
…私、気にし過ぎ。
準夜勤明けなんだから、勤務してるはずが無いって分かってるのに…。
見れば見るほど別人な看護師から目を外し、安堵とも言い切れない複雑なため息を落とす。
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