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「行こうか、パパのところ。お仕事してるパパ見たい?」
陽だまりの中に居る様な優しい気持ちになって、あどけない笑みを放つ少女に微笑みを向ける。
「うん、みたい!」
「だけどパパは仕事中だから、パイを渡したら直ぐに帰らなきゃいけないよ?」
私は靴下を履いた咲菜ちゃんをひょいと立たせ、その頭にピンクフリルの付いた帽子を被せる。
「うん。すぐかえる」
パッと明るい笑みの花を咲かせ、キャッキャッとはしゃぎながら私に抱きついた。
咲菜ちゃんを連れて行ったら…
先生、怒るかな…。
三角に切ったパイをサンドイッチ用の四角い箱に詰めながら、ちょっぴり怖じ気づく。
ちょっとだけ、ちょっと顔見るだけだから。
だから、許してくれるよね?
病院のスタッフは、誰も咲菜ちゃんを知らない。
もし見られたって、声を掛けられたって、「妹の子供を連れて親戚のお見舞い」だと言えば何の問題も無い。
見られて問題なのは、ただ一人だけ。―――香川さん。
先生の話によると、咲菜ちゃんと香川さんは数年会っていないと言うが…
こんな日本人離れをした可愛い子、早々居るもんじゃない。
栗色の巻き毛。透き通るように色素の薄い瞳。白い肌。一度見たら二年、三年経とうが彼女だと分からないはずが無い。
…一昨日と昨日は、準夜勤で夕方に出勤してた。って事は…今日は深夜勤入りか休みのどちらかのはず。
「大丈夫。昼間なら、香川さんに見られる事は絶対ないなっ」
パイを入れた箱をキルト製の手提げに入れて、「よしっ」と気合も入れて、既に玄関で靴を履き、未だか未だかと足踏みする咲菜ちゃんのもとに向かった。
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