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マンションのエントランスを抜け、咲菜ちゃんと手を繋ぎながら地下鉄に向かって歩く。
手のひらを高く伸ばせば、吸い込まれ同じ蒼色に染まりそうな程に澄み切った青空。
空気は梅雨期らしく少し湿り気を含んでいるものの。太陽の光の下、青々とした新緑を揺らしながら吹き抜ける風は澄んでいて、心地よく感じられる。
途中、ふと視線をとある家の庭先に伸ばすと、そこには大きな装飾花が幾つも付いた、立派な紫陽花の木が見える。
そうか…。
今が一番、紫陽花が綺麗に咲く時期なんだ。
視界に映り込む紫の紫陽花が、先生の書斎で、紫陽花に囲まれて微笑む雪菜さんの顔と重なって見えた。
「咲菜ちゃん。パパに会いに行った帰りに公園に行こうか」
紫陽花に視線を向けたまま、ポツリと言葉を落とす。
「こうえん?」
咲菜ちゃんは視線を奪われたままの私を見上げ、首を傾げる。
「…うん、公園。咲菜ちゃんのパパとママがね、デートした公園。ママの好きな紫陽花がいっぱい咲いてるんだよ。すっごく綺麗なの。…あ、その公園ね、近所の猫ちゃん達がお散歩してるんだよ。ベンチの下でお昼寝してて可愛いんだよ~」
深い息を吐き肩の力を抜いた私は、顔を穏やかな色に染め直し、少女に笑顔を向けた。
「ねこちゃん!いくっ、こうえん、いく!」
声を高ぶらせ、嬉しそうにスキップする咲菜ちゃん。
キラキラと、眩い光が射し込む空の下。
「よしっ、紫陽花の下でお昼寝してる猫ちゃんを写メしよう。一緒に、咲菜ちゃんも写メしよう~」
無邪気な笑い声を上げる少女に救われた気持ちになって。私はスキップのリズムに合わせ繋いだ手を振り、笑顔と共に声を弾ませた。
――――「で、咲菜を連れてここまで来たわけだ」
仕事中にも関わらず、メールで病院の中庭に呼び出された先生が、私と咲菜ちゃんを交互に見て呆れ笑いを浮かべる。
「…すみません。焼きたてのブルーベリーパイ持って…先生の顔をね、どうしても咲菜ちゃんが見たいって言うから…」
私は申し訳なさそうに言って、上目使いで彼の表情を窺う。
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