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「ブルーベリーパイ…これ、咲菜と一緒に作ったのか?」
先生は私が差し出した四角い箱を受け取り、上蓋を開いてパイに視線を落とした。
「うんっ。咲菜ちゃんがブルーベリーを並べてくれたの。カスタードクリームを作る時も上手にかき混ぜてくれて。…あっ、甘さ控えめで作ったから!それでも先生にとっては甘すぎるかも知れないけど…」
「三つ入ってるけど…俺に三つ食えと?」
「違うの。それは私と咲菜ちゃんの分。…その、一緒に食べるなんて無理…だよね?」
大胆な事をしているのは百も承知。
いくら中庭の外れで人気の無い場所だからって、ここは院内の敷地。いつ、誰が通るか分からない。
でも…
どうしても、咲菜ちゃんの前で「美味しい」と言って貰いたい。
私は遠慮がちに言って、請うように先生の顔色を窺う。
「どこで?」
「へっ?」
「だから、どこで食う?」
少し離れた木陰でしゃがみ込み、小石拾いをしている咲菜ちゃんを眺めて先生が言った。
「えっ!?良いの?」
頬を緩ませ、一瞬にして笑顔の花を咲かせる。
「そのために来たんだろ?」
彼は、無邪気な子供の様に歓喜の声を上げた私に視線を移し、ふっと穏やかな笑みを浮かべた。
「うん!えっと…あ、…こんな隅っこにベンチなんてある訳ないね。向こうにはたくさん空いたベンチあるのに」
姿を潜めている大きな木の陰から顔をひょっこりと出し、色とりどりのダリアや真っ白なマーガレットが咲き広がる園庭に視線を飛ばした。
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