第16話 【天使たちの歌声】

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「ブルーベリーパイ…これ、咲菜と一緒に作ったのか?」 先生は私が差し出した四角い箱を受け取り、上蓋を開いてパイに視線を落とした。 「うんっ。咲菜ちゃんがブルーベリーを並べてくれたの。カスタードクリームを作る時も上手にかき混ぜてくれて。…あっ、甘さ控えめで作ったから!それでも先生にとっては甘すぎるかも知れないけど…」 「三つ入ってるけど…俺に三つ食えと?」 「違うの。それは私と咲菜ちゃんの分。…その、一緒に食べるなんて無理…だよね?」 大胆な事をしているのは百も承知。 いくら中庭の外れで人気の無い場所だからって、ここは院内の敷地。いつ、誰が通るか分からない。 でも… どうしても、咲菜ちゃんの前で「美味しい」と言って貰いたい。 私は遠慮がちに言って、請うように先生の顔色を窺う。 「どこで?」 「へっ?」 「だから、どこで食う?」 少し離れた木陰でしゃがみ込み、小石拾いをしている咲菜ちゃんを眺めて先生が言った。 「えっ!?良いの?」 頬を緩ませ、一瞬にして笑顔の花を咲かせる。 「そのために来たんだろ?」 彼は、無邪気な子供の様に歓喜の声を上げた私に視線を移し、ふっと穏やかな笑みを浮かべた。 「うん!えっと…あ、…こんな隅っこにベンチなんてある訳ないね。向こうにはたくさん空いたベンチあるのに」 姿を潜めている大きな木の陰から顔をひょっこりと出し、色とりどりのダリアや真っ白なマーガレットが咲き広がる園庭に視線を飛ばした。
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