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底が抜けてしまわないかって心配するほど、大荷物になった帰り道。
「おかえり」
でも、漣が手伝ってくれるから大丈夫そうだ。
「た、ただいま、駅まで迎えに来なくても大丈夫だったのに」
本当は大丈夫じゃなかったけれど、別に男だし、持って帰る途中で腕が千切れてしまうってほどでもないし
でも、こうして早く会えたら、すごく嬉しいなって顔が綻ぶ。
「荷物持ち、必要だろ」
「夕方に帰るって言ったけど」
「そんなの待つ」
いつ何時の電車で帰るかなんてわからなかったから、大体の時間しか言ってなかったんだ。それなのに、こうして駅で待っていてくれて。
いつからここにいてくれたんだろう。
何時間も、なんてこと。
「手、冷たいよ」
「……冷え性なんだよ」
たしかに漣のほうが俺よりも指先は冷たいことがあるけれど、これはそんなんじゃなくて、もう北風で、かなり冷たさを増した外に長い時間いたからこその冷え方だ。
「もしかして実家に住むのかと思った」
実家、あんなに居心地が良かったなんて知らなかった。そういうことも実感しない毎日だった。
「居心地良かったよ~」
「おい」
「壁薄くないし、綺麗だし、隙間風すごそうとか母さんに言われちゃうアパートだし」
その時、ビュッと強く冷たい風が吹き付けて
思わず、漣の手を握った。
「!」
「でも、やっぱりここが一番好きだよ」
劇団も大好きだ。大きな声を出すのも、泣く芝居も、何をするのも楽しい。
バイトも好き。自転車こぐのがけっこう気持ち良い。坂道をノンブレーキで降りていくのとか、ジェットコースターみたいだし。漣には危ないからやめろって言われているけれど。
劇団の人も、香澄さんも、菫さんも、すごく好き。
実家も好き、になった。
好きも嫌いもなくて、ただの実家だったけれど、あそこは俺の家って思った。「ただいま」を言えば、かならず母さんが返事をしてくれる、俺の帰るところのひとつ。
でも
やっぱり
「漣とこうしてるのが、すごく好きなんだ」
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