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なんてことを考えては、そわそわとして落ち着かない。
「汗拭きシートとか持ってんだな」
「女の子みたいとか思った?」
だって、漣に抱き締められた時に汗臭いんじゃイヤだから。
「いや、なんかモデルっぽい。あ、これ、褒めてるからな」
漣はそういう些細なところまで気遣ってくれる。
モデルの仕事がサイのように好きだったなら、辞めたりなんてしなかっただろうと。だからモデルだった頃の良い思い出がないと。
そんなこともないのだけれど。
というか、そんなことすら思わないから辞めたのだけれど。
「うん、わかってる。ありがと。漣に可愛いとか、綺麗って言われるのはすごく嬉しいよ」
一瞬、目を見開いて、そして耳を赤くしながら「バーカ」と照れて、俺の髪をくしゃくしゃにしてから、見えないように下を向かせるんだ。
グンって頭を手で押して。
その手がとても温かくて、撫でてもらうたびに好きだと実感する。
「俺の裸見てムラムラしてんな」
「なっ! してないよ」
「そうか?」
ニヤリと笑って、長い前髪の奥にある黒い瞳が意地悪な感じに細められた。
「つ、爪痕、痛そうだなって」
「あー……」
「い、痛いだろ?」
俺は一番の下っ端で、漣はそんな俺に付き合ってくれて、だから、今、この更衣室にいるのは俺達だけ。だからこそこんな会話をできている。
内緒の恋愛だから。
「痛くねぇよ」
「でも、これ」
「イく時のお前を思い出せるし?」
「ちょっ!」
強く突き上げられて、意識が飛びかけた瞬間、思わず掴んだ漣の背中、それをまざまざと感覚ごと思い出してしまい、慌てて掻き消すように手をバタつかせた。
「アハハ、すげぇ、可愛い顔」
「は、早く服着なって! 風邪引くから」
そうだ、風邪を引いたら、それこそ大変だ。大事な初舞台はもうすぐそこまできているのに。漣と一緒に立てないなんて絶対にごめんだ。
それに、あの風邪薬は本当に苦いから、飲んだらきっと漣だって目を丸くする。
「何、ふたりでイチャついてんだ」
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