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「ごめん。怒った?」
「……怒ってません。」
なんだか恥ずかしくて、そっぽを向いてしまう。
けど、先輩と喋れるのが…嬉しい。
「先輩、今日も……」
「ん?」
「…告られてましたね。見ちゃいました。」
「あ~、見ちゃった?」
しれっと言うこの人が、小憎らしいような。
「……聞いてもいいですか?」
「そう言われると怖いんだけど。…どうぞ?」
一応、静かにしてなきゃいけない図書室なので、2人ともかなり声を落としている。
近くの棚には誰もいないのを確認して、意を決して尋ねた。
「断ったんですか?」
「まーね。」
「先輩…誰とも付き合ってないんですか?」
「それは答えなきゃダメ?」
うっ、とあたしは言葉に詰まった。
先輩があたしの質問に真っ正直に答える義務なんて、まったくない。
それに。
先輩の少し困ったような笑顔。
それを見てたら、「はい」なんて言えない。
無言になったあたしに、先輩は優しく言葉を紡いだ。
「…みんなの好意は嬉しいから、断るのはこっちも心苦しいよ。」
「……そう、いうもんですか、ね。」
「うん。オレ、振っても何とも思わないほど鬼畜じゃないから。」
ふと、目線を上げて先輩を見ると
その眼差しは、相変わらず柔らかい。
あたしが持ってた本をまた一冊手に取り、ラベルを見た後、一番高い棚へそれをしまう。
――――先輩と初めて喋った時も、こんなふうに。
本の片づけをしてる時。上から2段目の段にしまいたい本があったのに届かなくて。
踏み台を持ってくればいいのに、横着してムリヤリしまおうとしてたところを、手伝ってくれた。
その時の優しい笑顔が、いつまでもあたしの心に残って。
気付いたら、好きになってた―――
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