第1章

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          *  *  * 私は受け入れるだけでいい。 彼はそう言った。 彼の言葉にふんわり巻かれたオブラートを引っぺがすと、父親が男と付き合う事に反対しない人間を易々と信じる事は出来ない。 だから、流れに身を任せて、高遠さんを受け入れていればいい…という事だった。 なので、今後どうなるかわかんないなって思っていたのも束の間。 翌日の夜だった。 早速、事が動いたのは。 「優は高遠秀斗君って知ってる?」 「…ううん」 実際、昨日までは知らなかった。 どこか部活に所属してる風でも無いし、記憶になかった。 「秀斗君が優を学校で見かけて、気に入ったらしいんだよ」 「…へぇ」 「同じ学校なんて、運命的だねって、修さん…高遠先輩とも言ってて、秀斗君も会ってみたいって言ってるそうなんだ」 嬉しそうに話す父に、少しの罪悪感。 恋する乙女みたいな、どこか恥じらう姿が無駄に似合う。 父は所謂美中年だ。 ちなみに、私は美少女じゃない。 母似だ…あ、ごめん、母さん。 別に母だってブサイクじゃなかったけど、大きいけど一重の目がバッチリ遺伝しちゃって、何となく愛想の無い顔つきをしてる。 それに比べて父の40歳を過ぎた今でさえ娘から見ても、綺麗な顔してるなって思わせる美形ぶりを何故私に遺伝させてくれなかったのか。 遺伝子の不思議。 母の豊満なバストが現時点で遺伝してる気配が無いのも納得いかない。 ……って、脱線したわ。 「…会ってもいいよ」 「…え、本当!?」 父がすごく驚いた顔で私を見る。 断られると思ってたんだろう。 両手を胸の前で組んで、私の高校の合格発表を見に行く時と同じ仕草。 「うん、同じ学校なら、どうせ何かで今後知り合うかもしれないし」 「そうだね、うん。そうだね!」 確かに、ゲイであってもなくても。 父を見たら皆”可愛い”と言うと思う。 美形なんだけど、嫌味のない天然な感じで。 何だか放っておけないって思う。 父の同僚も何となく父には構うというか…私、娘なのに私の心配より父の心配をする人が多いんだよね。 母が死んだ時、父を支えてやってねって父の同僚に言われた事があった。 それ以来、その人の事は何となく嫌いだ。
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