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この店は、父と母の思い出のお店。
オシャレで落ち着いた店内だけど、どことなく家庭的で居心地が良い。
私がここに初めて来たのは去年だった。
去年の、誕生日。
母との思い出の店だと言って、父が連れて来てくれたのだった。
予約をしているらしいけど、私は時間前に中に入る気は無かった。
高遠さん達もそれぞれにこの店に来るのだとしたら、私は高遠さんのお父さんと二人、初対面の挨拶を交わす事になってしまう。
正直、それだけは避けたい。
踵を返し、約束までの十分程をどこかで潰そうと思った私の肩を、誰かの手が掴んだ。
「どこ、行くんだよ」
呆れ半分、苛立ち半分。
そんな声を出したのは高遠さんだった。
少し首を上げたくらいでは視線が合わず、上目遣いに見て、やっと視線が合う長身。
痛いわけじゃないけれど、肩を掴む手の力も強かった。
「まだ、時間じゃないので…どこかで暇を潰そうと思って」
「中、入ってればいいだろ?予約してるらしいし」
「……はい」
逆に聞きたい。
あんたは私の父と二人っきりになる可能性があっても迷わず店内に入るのか、と。
いや、入るつもりだったんだろうけども。
「もう暗いから、フラフラしてんなよ」
確かに、8時前の夜空は暑い季節に差し掛かった現在でも真っ暗で。
女子高生がフラフラしていて良いと手放しで言える雰囲気とは言い難かった。
「先入んの嫌なら、付き合うけど」
「いえ、いいです」
「そ」
「ていうか、連れだって入って、父達が居たら不自然じゃありません?」
「別に、俺はお前の顔知ってるからいいでしょ」
そうか。
店の前で声かけたって設定で行けばいいのか。
高遠さんに軽く肩を押され、いつの間にか彼が開けたドアの中に入れられる。
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