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「待たせて済まない。君が優ちゃんだね?会いたかったよ!」
「…初めまして、根古谷優です」
私は会いたくなかったよ、なんて言えるわけはない。
無難に頭を下げて父に視線を走らせると、父はほっとしたような顔をしていた。
大人なんだから一人で来れるだろうに、どうして彼と一緒に来たんだろう。
私がバックれるとか思わなかったのかな。
「随分大人しい子だねえ。桜さんにそっくりなのに」
高遠父は父に向かって言うと、高遠さんの隣に座った。
私はというと、ビックリしたのを顔に出さないように必死に口を噤んで座っていたけど、驚くなと言うのは無理な話だった。
桜、というのは母の名だ。
会った事、あるんだ…。
「そうだね、桜は元気いっぱいだったから…優も昔はそういう感じだったけど…確かに落ち着いてるね。色々苦労させてるからかな」
母の死、家事…そういうものが私を子供で居させる事が難しかったのは確かだ。
でも、別に私は大人びてるわけじゃない。
父の過去を知って、父を傷つけるような事を言ってしまわないかこれでも気を使ってるんだよ。
言動に気を使って生きてたら、あんまり余計な事を言わなくなっただけ。
別に大人びてるわけでも、成長してるわけでもない。
「あ、俺の事は仁くんって呼んでね」
待って、ほっぺた引きつる引きつる。
いいトシしたおっさんがなーにが仁くんだよ!
って、言いそうになるのをぐっと堪えた。
「え…っと、父より年上の人に”くん”付けはちょっと…」
「へぇ、堅いんだね。優也は初対面で俺の事仁くんって呼んでたのに」
優也、と呼ばれてはにかむ父は「優は運動部だから礼儀正しいんだよ」と言った。
礼儀正しいか微妙なところだけど、高遠父とそんなに仲良くなりたくないのは確かだ。
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