第1章

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「ま、うちの息子ともどもよろしくね、優ちゃん」 そう言って笑う高遠父…いや、仁さんは父の元カレであってもドキッとするような笑顔で言った。 父達はお酒で、私と高遠さんはお茶で乾杯して、表面上和やかに食事が始まった。 私は初対面の仁さんを横目で観察してみる。 高遠さんより、少し顔は薄め。 でも、その分流行りのイケメンオーラが凄い。 少し色素の薄い父と違って、真っ黒でハゲそうにないくせのない髪。 高い鼻に少しだけ眉間が出ていて高遠さんと同じ彫りの深さがある。 薄い唇も、切れ長な目も、余すところなく彼の男ぶりが良いと主張していた。 思ったより若作りのイイ男で驚いたっていうか…。 でも、うちの父も無題に若作りだしね。 この前も電車で痴漢に遭ったらしいし。 私でも遭わないのに。 「で、2人は先に来てたみたいだけど、何か話したのかな?」 ビクッ。 え、な、なんて言うの? 何て言ったらいいの? 助けを求めるようにチラリと上目遣いに高遠さんを見る。 高遠さんは一切表情を変えず、仁さんを見た。 「別に、ドアの前でウロウロしてたから連れて来て、自己紹介してた」 「なんだ。俺達来るのが早すぎたみたいだね、優也」 「はは」 はは、じゃねぇよクソ親父! と、心の中で悪態を吐きつつも、私は愛想笑いをする。 結局、私と高遠さんの事はそのくらいで、後は基本的に仁さんの独壇場だった。 彼はお喋りだ。 仁さんが喋り倒して、父が楽しそうに相槌を打つ。 高遠さんは反応もせずに黙々とご飯を食べて、私は愛想笑い。 変な食事会だと思うし、もう次は勘弁して欲しいとも思った。 ただ、何となく子供には知り得ない父の昔がわかるのは興味深かった。 仁さんいわく、父は昔から男女問わずモテていて、普通に会話をしていても誰かしら割り込んで来る程だったらしい。 確かに、今でも父はモテる。 成人して娘も居る今更男に迫られるってのはあからさまには無いみたいだけれど、柔らかな物腰や雰囲気、人の良さで会社の人にはすごく好かれている。 父が怒ったのは、一度しか見た事が無い。 私は、怒られた事すらない。
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