第1章

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父が、高校時代にお世話になった先輩に再会したのだという。 丁度高校生活に慣れ始めた6月。 帰って来た父が嬉しそうに話すものだから、制服の上からエプロンを着けたまま、私は父の話にダイニングテーブルに座って耳を傾けていた。 「それでね、昔の約束を思い出したんだよ」 「約束?」 青春時代の先輩との約束。 それが何年、いや、十年どころじゃない時を経て思い出された。 何だか私もワクワクした気持ちになって、少し身を乗り出した。 「お互いの子供が男女だったら、結婚させて僕達、家族になろうって約束したんだ」 「…父さん、それって…」 「あぁ…うん、実は、僕達お付き合いしてたんだ…」 開いた口が塞がらないとはこの事だ。 マジで。 そう、この父はゲイ寄りのバイ。 父が昔男と付き合って別れさせられたというのは知ってる。 その後、全ての事情を知る母と付き合い、結婚。 そして、私が生まれた。 きっと件の別れさせられた男というのが…お世話になった先輩とやら…なのかな? 別の元カレという可能性も否めないけれど、私は娘として父に確かめる勇気は無い。 ピチピチの女子高生。 思春期まっただ中。 親とそんな濃い話、出来ない。 母は3年前交通事故で亡くなっていて、私が父の性癖を知ったのは母の日記を読んだからだった。 というか、父と母の死を悼みながらソファで寄り添って読んだ母の日記にそんな事が書かれてあって…。 あんな気まずい空気、二度と味わいたくない。
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