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「えっと、誤解されてるようなので言わせて頂きたいんですけど」
「何?」
「私、別に父が男性と付き合うのに手放しで賛成したわけでも、オススメしたわけでも無いんです」
「…どういう事?」
「父が、お世話になった先輩と再会したって言い出して、それが元カレだって言うじゃないですか」
ため息交じりに話し出した私を訝しげに見つつ、アイスコーヒーの紙コップから突き出たストローを咥える高遠さん。
それをチラリと見てから、フォークをケーキが入ったプラスチックのカップにカチリと当てた。
「で、その元カレの息子さんと私を結婚させようって約束したのを思い出したから会ってみないかって言われたんです」
「それは、俺も聞いた」
「正気の沙汰じゃなくないですか父とそういう関係があった人の息子さんと親しくするとか、無理じゃないです?だから、巻き込まれたく無くて母は死んでるし、付き合いたいなら勝手にしてって思って…」
「ヨリ戻せって?」
「正確には、こっちをダシにするなって思ったから、二人で会えばって。二人が付き合うってなっても別にいいし、とは言いました」
「ニュアンスの問題だな…確かに勧めてももろ手を挙げて賛成してもないね」
「してないです」
「うちの親父が、そっちの親父さんを口説く気満々でさ」
「…え?」
「そっちの娘さんは応援してくれてるって言うもんで。余計な事してんじゃないぞって思ったわけ」
「で、呼び出しですか?」
「そ。でも、そういう事なら理解したし、納得」
紙コップをテーブルに下す、トン、と軽い音が響いた。
「高遠さんは、父達がヨリを戻すのは嫌なんですよね?」
「そりゃそうだろ」
「私、嫌かどうかで言うと抵抗あるんですけど、嫌だとは言いません…てか、言えないんですよね」
「は、何で?」
高遠さんが驚いたような、それでいて少し怒ったような顔で私を真っ直ぐ見つめた。
空調が効き過ぎてるくらいに冷えた店内で、私はジワリと背中に流れる汗を感じた。
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