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春風が、心地よく、陽射しが暖かくなった。
僕は、大学を卒業するんだ。だから、ここのバイトを辞める。
おかげさまで、卒業後の就職先も内定してるし、僕が辞めた後のバイト君も決まったから、一安心だよね。
そんな中、この3ヶ月余り、取り立てて気にしていた訳でもないが、フタバちゃんが、どうなったか、僕は、どうしても知りたくなった。
どうせ、また、真実を突き付けられて、落胆するのは、わかっているのになぁ。
僕は、懲りもせず、花壇のある場所へ向かっていた。
その場所は、雰囲気が変わっていた。
中途採用で、年明けから、勤務している事務のおじさんが、小まめで、花好きな人らしく、花壇の手入れやなんかも、空いた時間に、せっせとやっている姿を見たことが、何度かあった。
でも、この花壇まで、完璧に手入れされてるとは、思っていなかったんだ。
結局、フタバちゃんは、いなかった…いたはずの場所には、春咲きの小さな花の苗が、綺麗に並んで植わっていたからだ。
明らかに、落胆している僕がいた。
そんな僕の視線の先。
花壇の隣にある、あの木の枝の先っちょに、枝とは明らかに違うものがあった。
ぷらんぷらんと、春風に、揺れるそれは、枯れてしまったフタバちゃんの蔓の名残…。
「………」
あの時、例え、小さくても、あの鞘を…いや、小さな小さな恐竜の卵を、僕は、手にするべきだったんだ…。
小さくても、れっきとした種子だ。
しっかりと養分のある土に植えて、たっぷりの日光と水を与えていったら、次は、もっと大きな種が、取れたかもしれない。
そうしたら、僕は、恐竜の卵の夢を抱えて、生きていけたのに…。
きっと、僕は、あの日、フタバちゃんと一緒に、夢を持つ力と見る力を、同時に、捨ててしまったんだ。
僕は、一番なりたくなかった《夢のない大人》に、一歩踏み出してしまったんだろうか…。
知らない間に、僕の目から涙が、溢れていた。
いつまでも、ずっと…。
[fin]
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