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それ以来、薬局のあの部屋に入る度に、僕は、恐竜の卵に、声を掛けていた。
まるで、大切な人の肌に触れる時の様に、優しくそっと指先で、撫でてやるんだ。
「お前、いつ孵るんだ?」
「早く、目を覚ませよ。」
「今日も、顔を見せてはくれないのか…眠り姫。」
3日が、1週間に…更に、もう1週間…。
孵るなんてないと、思い始めた時だ。
表面に小さな亀裂を見つけた。
次に来ると、間違いなく亀裂は、大きくなっていた。
その次の時は、中の白い膜が見えて、そいつが、少しばかり膨らんでいた。
ワクワクしながら、次のバイトの時、少し早めの時間に来て、薬局を覗くと、いつかの薬剤師のお姉さんが、にっこり笑いながら言ったんだ。
「芽が、出たわよ。」
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