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「誰?」
先に聞きたかったことをあっさりと言われてしまうので、薄く笑った。
「君こそ」
彼女は何も言わず、やがてはフェンスを掴んで、遠くを見た。
少し離れて横に並び、同じように景色を眺める。
眼下は細々とした住宅街で、周囲には山々がそそりたつ。
遠くに繁華街があり、そのまた向こうにはコンビナート(夜景が綺麗だ)、海。
電車が蛇のようにうねうねと車体を揺らしながら、トンネルに消えていく様子まで見える。
まさに絶景。あの薄暗い道のりを超えられた者だけが貰えるご褒美のようなものなのだろう。
「ここが好きなの」
「へえ。変わってるね」
時間を忘れられるの。彼女が小さくそう言ったが、聞こえないふりをした。
彼女の腕時計が午後六時過ぎをさしている。
「学校は?」
何となく尋ねてみる。特に深い意味はなかった。
「あなたこそ」
錆びたフェンスが風でカシャカシャ言っている。
老体に鞭を打つな!と怒号を浴びせてくるようだ。
手を離すと彼女も同じように離した。
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