0.夕暮れのスピカ

6/7
前へ
/7ページ
次へ
なんだか自分に似ている。根拠はないけれど、似ているのだ。 呼吸の際に胸を詰まらせ、少しの間むせ返った。 違う、これは症状じゃない。 言い聞かせるも、この嫌につっかえる咳は、紛れもなくいつもの症状だ。 手術後、数年間の幽閉に近い病院生活はなんだったのか。 まるで成果が得られていない。 フェンスに掴まり、もたれるようにして、症状が治まるまで咳を繰り返す。 と、背に手を添えられ、顔を上げると、彼女が一定のリズムで撫で、病魔をなだめてくれようとしていた。 やがて落ち着いたので、彼女に礼を述べた。 彼女は握った手の甲を口に当てて、小さく笑う。 「顔色が、悪いわ」 不謹慎にも彼女は笑うのだ。 今までは、少しでも体に異常が来すとすぐに周囲は心配し、向けられる目も真剣そのものだった。 故に、笑う彼女を冷徹に思う者もいるかもしれない。 だが、当たり前は当たり前じゃない。 すっかり人に頼り切って生きていた自分が情けなく、こんなに可笑しいこともないだろう。 恥ずかしさを隠すようにつられて笑った。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加