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父さんは何も言わない僕に、引きこもってるよりは良いだろうと、最終的には了承してくれた。母さんの方は最後まで反対していたけど。
まあ、当然高校生の身分で一人暮らしなど認められるわけも無くーーー
「......この辺だよな」
頼り身のない心細さもあってか、つい独り言を口にしてしまう。事前に渡されていた手書きの地図と住所を頼りに目的地を探す。
渋谷に住む叔父が店を経営しているらしく、そこで面倒を見てくれることになった。高校の合格通知が届いた後も、母さんはギリギリまで渋っていたため、結構急な決定だったのにも関わらず、叔父さんは快く引き受けてくれた。ちょうど学校もすぐ近くらしく通学にも都合がいい。
渋谷という街は駅から放射状に毛細血管のごとく小さな路地が伸びているため複雑に入り組んでいる。それに道も少しずつ蛇行しているので方向感覚も見失いやすい。今日中に学校までの通学路を確認しておこう。
目的の建物は案外すぐに見つかった。ブティックの並びにひっそりと佇む薄汚れた雑居ビル。手持ちの地図にはB1と書かれている。
ーーー地下?
僕はその雑居ビルの目の前で立ち尽くす。表には『LIVE HOUSE Square Eve』と書かれた立て看板。何度も住所と照らし合わせるが、しかしどうにもこの場所であっているようだ。
店ってライブハウスかよ......。
見れば地下へと続く階段は薄暗く人の気配が無かった。旅の疲労もあってか何割増しかナイーブになっているのかもしれない。
僕は少しの間逡巡した後、意を決して足を踏み込む。なぜか頭の中ではDeep Purpleの『Black Night』が流れる。
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