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指先にほんの少し、乾いた紙の触感がした。
頭の奥深いところでは、本のページをめくるような、かさりという音が微かに聞こえる。
しかし次の瞬間には、自分が今何を考えていたのか思い出せないでいる。
何かを確認するために持ち上げられた手は、特に意味もなくグーとパーを繰り返し、元のように再び馬の手綱を握るしかなかった。
──………っと、………てる……?
空は雲一つ無い快晴で、暑さはあるが風が涼しく心地良い。
木漏れ日が差し込む森の中を、ゆっくりとした足取りで馬の歩みを進めていく。
同じリズムで刻まれる、小気味の良い足音に耳を傾けていた。
強い風が吹き、砂埃が舞った。
反射的に顔を背けると、視界の端に写るのは、およそ千もの軍勢。
この全てを率いているわけではない。
しかし、この内の一部は僕が率いることになる。
風が通り過ぎ、顔を前に向けると、ちょうど森を抜けたところであった。
森を抜けた先、戦場までもうそれほど距離はなかった。
ふと、自分の今の状況が、まるで物語の中に迷い込んでしまったような、そんな感覚に襲われた。
時代はそう、話に聞く中世ヨーロッパのようである。
しかしどうだろう。
中世ヨーロッパとははたして何であったか、思い出せない。
自分の思考があまりにちぐはぐすぎて、わけがわからなくなる。
そして次の瞬間には、そんなことも気にしなくなっていた。
──………校……ても……ない……よ。
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