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「そろそろですね」
僕の右前を行く女騎士に声をかけた。
銀の甲冑を身にまとった、およそ戦場には似つかわしくないような美しい女性だ。
彼女こそが僕らの大将、この千にも及ぶ騎士団の団長である。
女性で騎士なんてのもかなり稀だが、その中でも騎士団の団長を任されるような人は、この国ではただ一人、彼女だけである。
女に騎士、ましてや団長なんて務まるものか、そんな声ももちろんあった。
かくいう俺も声にこそ出さないが、そう思っていた。
しかし、その考えは間違っていたと言うほか無い。
彼女の手腕は俺の知るどの団長よりも優れていた。
結果も五戦無敗と申し分なく、彼女が率いるこの騎士団は、国最強と言われるまでに成長していた。
団長の青い瞳がこちらを向く。
口元が微かに笑っていた。
「どうした? ひびってるのか、ジャック?」
そう言われては俺も黙ってはいられない。
何か気の利いた言葉を返してやろうと口を開きかけたとき、突然肩を揺さぶられた。
急にひどい耳鳴りに襲われ、思わず目を瞑る。
団長の名を呼ぼうとしても、声が出ない。
なんなのかと、今度はたまらず目を開いた。
視線の先では、みるみるうちに団長の顔が歪んでいっていた。
いや、歪んでいるのは団長だけではない。
視界全てがぐにゃりと歪んでいく。
そして景色が暗転し、一転した。
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