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思い返せば、長い旅だった。
終着点のない、永遠に続くと思われたこの旅を、今ようやく終わらすことができる。
そのことに感じるのは喜びではない、もちろん悲しみでもない、ただひたすらな安堵感であった。
しかし私は思うのだ。
幸福とはあるいはこのことかもしれないと。
仲間、地位、財産。
失ったものは多く、最後に残ったものはこの体だけ。
それでも、得たものは確かにあったと、そう思える。
私は今日までのことを決して忘れることはない。
そしていろんな人に語り聞かせるのだ。
その話はいつしか有名になり、きっと後世永遠語り継がれるだろう。
空を見上げ、そっと目を閉じた。
そのとき。
突然地面に穴が空いたように、あるいは急にテレビの電源を落としたかのように、世界から全てが消えた。
閉じたまぶたを開こうとして気づく。
まぶたがなかった。
それだけじゃない、腕もなければ足もない。
何もない。
ただ僕という存在だけが闇の中に沈んでいた。
そして、なにもわからないまま、意識は急速に現実へと引き戻された。
静かに手元の本を見る。
ページは最後の一ページが開かれていた。
ほとんど無意識に目は最後の一行を追う。
──空を見上げ、そっと目を閉じた。
何が起こったのか、頭では理解できても、気持ちがまったくついていけない。
あの状況はなんなのか、あの感覚はなにか、そもそも何を感じて、何を感じていなかったのか、まったく、何ひとつ、何も理解できない。
あるいは、あれが"死"──
このまま本を読み続けることは危険だと、僕の真ん中の奥の方が、理性を吹き飛ばして言っている。
けれども吹き飛ばされた理性がこう言っているのだ。
もう手遅れだ、お前は本なしでは生きていけないと。
それに、ちゃんと戻ってこれたじゃないか、大丈夫、次も戻ってこられるさ。
次の次は?
そのまた次は?
奥から聞こえる問いかけに、僕は理性で蓋をした。
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