再会、再会。

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セックスは、何かを埋める作業だと思っていた。 言葉では伝わらない何かを、体を使って埋めている、そう思っていた。 私はいつも、全身でそれを伝えてくる男の人を見ているのが好きだった。 私は想いを返したことはなかったが、受け止めていたつもりだった。 セックスは、愛を知らない人がしてはいけないのかもしれない。 何かがすり減っていく。 そんな気がした。 自分の鼓動みたいに一定のリズムで、ポロポロと何かがこぼれる音が聞こえた。 行為が終わって眠っている相手の顔を見るのが好きだった。 でも、今夜はなんとなく顔を見ないまま部屋をあとにした。 一階は静かで、フロントだけがぼんやりと明るい。 薄暗いロビーを通って、外へ出た。 少し肌寒い。 今は何時なのだろう。 東京の夜は明るすぎて困る。 『お花屋さん?』 そう声をかけられて、はっとした。 そんな風に呼ぶ人は、一人しかいない。
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