再会、再会。

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『あぁ、あのときの。あんまりしっかり顔を見てなくて気がつかなかったよ。 澄香ちゃんも旅行?』 気のせいだったのだろうか。 重く沈んだ空気が戻った。 笑顔の裏にある寂しさとかそんなものに気付く余裕は、この時の私にはなかった。 それよりも、会話が続きこのまましばらく帰らなくて済むってことに、心が弾んでいた。 『はい。たまに旅行に行くんです。一人で。なんか逃げ出したいなーと思うことってありますよね?』 柳井さんは何も言わず、ふっと笑った。 それからどのくらい話していただろう。 ゆったりとした時間が流れていた。 『そろそろ、帰ろうか。』 煙草の火を消し、ゆっくりと席を立った柳井さんの横顔を眺めながら、私は今まで感じたことのなかった焦りと闘っていた。
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