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光に満ちた一階のエントランスと吹き抜けの二階廊下。
安原亜紀は『蜃気楼』とレリーフされた木製の重厚なドアを静かに引く。
明かりを落とした店内。暗がりに慣れるまでの2秒間。
亜紀はその刹那(せつな)を長く感じた。
『バー 蜃気楼』
ドアを開け左にカウンター。スツールは全部で7席。
スツールの背側に一人がやっとの通路。
右側にカップル用のテーブルが2セット。
壁に沿って並んでいる。夜9時。
客はカウンターの一番奥に一組のカップルだけ。
亜紀はスカートの後ろ側を押さえて腰よりも高いスツールに座った。
カップルと笑顔で話していたマスターが、亜紀へ視線を軽く向ける。
客の二人もマスターの瞳が動いた方向を確かめた。
三人の視線がつかの間、亜紀に集中した。
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