3.石井くんと電通

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○月×日水曜日  はい、きたよ。とうとうきたよ。何がって? わたしが気になって仕方なかったあの人、石井くんだよ! ちなみに今、向かいの席を確保しております。特等席ゲットですありがとうございます。 「ふんふ~ん、ふふんふ~ん」  鼻歌交じりの石井くん、ご機嫌なご様子。本人は非常に楽しそうだ。わたしとしては、彼が体を揺らすたびに、頭にかろうじて生えている髪の毛のうち、特に長い一本の毛がゆらゆらしているのが非常に気になって仕方ない。 「ふ~んふん、ふふ~ん」  ……むしりたい。その一本、引き抜きたい。う、手が……うずく。 なんて、どこぞの中学2年生男子のようなことを考えていると、おもむろに石井くんの手が、鞄の中に伸びた。一体、何を取り出そうというのか。何気ない風を装いながら、横目でガン見する。 「あった! マービルチョコ」  チョコかよ! お菓子かよ! つか、甘党かよ!!  もったいぶった様子で、残り少ない髪の毛を整える石井くん……。手に持っているマービルチョコの数よりも、その頭にある髪の毛の本数の方が少ないことは、誰の目にも明らかだが、言わない方が良いのであろう。彼はまだ、幸せなようだから。 「何が出るかなぁ」  子供かアンタ。大層わくわくした様子で、手に持っている筒状の容器を逆さにする石井くん。あ、こら、そんなに勢いよく逆さにしたら……。 「うぁっ」  ほら言わんこっちゃない。言ってないけど。当然のごとく、マービルチョコが電車の床の上を転がってゆく。落ちたのが一粒だけだったのが幸いしたのか、わたしと石井くん以外は、誰もこの事態に気が付いていないようだった。
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