1.みみざわさんと電通

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○月×日  月曜日  電車通勤、電車通学。それらでほどよくにぎわうこの車両。向かいの席にはスマホをいじる女子高生に、目つきの悪い中学生が2、3人ほど。今日も、面白い乗客は見られそうになかった。  私は、この電車で中学、高校と電車通学をしており、社会人になって何年かたった今も、この電車で通勤をしている、ただのOLである。顔は並よりちょい上ほどと自負している。ちなみに彼氏などがいたことはなく、これからもできる予定はない。とどのつまり、世間一般的な常識的なOL(※趣味は人間観察)なのである。 「次は、○○駅ィ~」  妙にけだるげな声が車両に響く。これも学生時代から聞きなれている。ちなみに、私が降りる駅はあと3つほど先であるから、ほどほどに観察できそうだった。  車両のドアが開き、入ってきたのは一組の親子と、サラリーマン、チョビ髭を生やしたダンディーなウサ……え? ウサギ? なんで? 「ママー。うさぎさぁん!」  隣の席に座っていた少年が、母親らしき女性に向かって嬉しそうに言う。が、振り返ったウサギの顔に生えているチョビ髭を見るなり、その顔が強張った。……そりゃそうだ。 「やあ、ボク。こんにちは」  ……喋った。ウサギが、喋った。ウサギは固まってしまった少年に笑いかけた。おっさんみたいなウサギからおっさんみたいな声が出たことに、もはや驚きを隠そうともせず口を開けて見つめる乗客たち。ちなみに、わたしもそのなかのひとりだ。 「こ、こんにちは」  少年、偉い。怯えても仕方ないのに、震える声で返事をした少年に心の中で拍手を送る。
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