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○月×日火曜日
「次は○○駅ィ~」
今日もまた、やる気を根こそぎ奪い去っていくような、やる気のない車内アナウンス。もうほんとにこのおっさ……天の声さん、やめてください。おっさんとかもう言わないから、やめてください。
天の声さん(アナウンス)の予告通り電車が止まり、乗り込んでくる乗客たち。さぁて、面白そうな観察対象は……うわ。
「あ? 何じろじろ見てんだよ」
……うわぁどうしよう。隣のおばさんが思いっきりからまれている。見るからにヤンキーな、金髪つり目の女子高生に、おばさんはすっごくおびえてる。わたしは、気が付かないふりをして、そっと席を立つ。
薄情者、と叫ぶおばさんの心の声が聞こえた気がしたけど、いや、わたしも怖いので。すいません。巻き込み事故とかマジ勘弁してください。わたしは平穏な電通ライフを切望します。
「あ、あのぅ……。お客様、車両内での他のお客様のご迷惑になりますので……」
こ、このけだるげな声は、まさか天の声さんか!? この人ちゃんと仕事してたんだな。
「あぁ? アナウンスか。しゃしゃり出てくんな、このビビりが」
「す、すみませんでしたァ~!!!!」
キィィィンと音割れするスピーカー。みんな耳を塞いでいる。
あーぁ。ヘタレだな、このおっさん。女子高生に本気でビビってるよ。情けない。いや、わたしも言えないけど、言えないけどね?
か細いおばさんのため息が後ろで聞こえた。ごめんよ。悪く思うなよ。そう思いながら、あまり離れていない向かいの座席に腰を下ろす。よし、ここなら巻き添えにもならないだろうし、観察もできる。だがしかし、次のヤンキー女子高生の言葉に、耳を疑った。
「あ、いや……別にその、こっちこそごめんな? なんか、思わずガンつけちまうっていうか……その」
え? 嘘、あんたヤンキーじゃないの? なにその微笑ましい感じ。姉御って呼びたくなるなおい。あれ? 実はいい子なの? あれ、そうなの?
「と、とにかく、悪かったね。ごめんよ」
「い、いえ。こちらこそ」
あれ、なんだこの穏やかなムード。周りでビクビクしてたおっさん共よ、なんでそんなだらしなく頬を緩めて二人を見ているんだね?
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