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「あ、そうだ。今度お詫びさせておくれよ。連絡先、聞いてもいいかい?」
なんでそうなる。つか、いい子か。姉御か。なんだその姉さんキャラ。おばさん、なんでそんなうっとりしてんだ気持ち悪い。
「ええ、もちろん」
いや、だから違うだろ。おい、おっさん共、なんでメモ帳取りだす。勝手に盗み聞きして連絡とろうとしなくていいから。
「次はァ~。なんだっけ、あ、○○駅ィ~」
おい、天の声。なんだっけじゃねぇよ。お前何年この仕事やってんだ。忘れるな。駅名忘れんな。
「あ、アタシ降りなきゃだ。っつーわけで、またな。おばさん」
にっと笑って手を振るヤンキーちゃん。あれ、なんだろう。後光が見える。
「はい、また会いましょう。姉さん」
いや、姉さんじゃねえよ、おばさん。何心酔しちゃってんの? 相手、女子高生だよ? ヤンキーだよ? 大丈夫?
「あぁ、素晴らしいわ……」
そんなにでしたか奥さん。アイドルにのめり込む女子ですかアナタ。満足そうで何よりです。良さは分からないけど。
「あぁ、よかった。降りてくれた。何事もなくてよかったぁ~」
うるさい、天の声。心の声、漏れてるって。いっそ仕事、首になればいいのに。
「あら? これ、何?」
さっきの主婦さん、何拾ってんの? フラグ? フラグ立てたいの? これ、あれでしょ? さっきの女子高生の落とし物でしょ? え、関わる感じのフラグじゃん。どうすんの。天の声さん今度こそ心臓止まるんじゃないの。
「主婦の方、それ、窓の外にぽいって……」
天の声さん、それはあんまりだ。主婦の人も冷たい視線を監視カメラに送っている。
「……あははっ。じょーだんですよじょーだん。あはははは」
乾いた天の声さんの笑い声が響く。ああ、これはきっと軽蔑という感情なんだろうな……。
「こちらで、一時お預かりしますのでェ……。持ってきていただけますか……ふわぁ」
あくびすんなおい。眠いのかよ。しかも持ってこさせるのかよ。主婦さん、律儀に持っていかなくていいよ。取りに来いっていえば、あいつ来るから。
「ぐがー」
いや、ガチで寝るのかあんた。マイク入ってるし、今度こそ仕事なくなるぞ。
その後、マイクを通して何かを殴る音と、天の声さんの悲鳴が聞こえたのは、きっと気のせいじゃない。
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