2.ヤンキーちゃんと電通

3/4

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「あ、そうだ。今度お詫びさせておくれよ。連絡先、聞いてもいいかい?」  なんでそうなる。つか、いい子か。姉御か。なんだその姉さんキャラ。おばさん、なんでそんなうっとりしてんだ気持ち悪い。 「ええ、もちろん」  いや、だから違うだろ。おい、おっさん共、なんでメモ帳取りだす。勝手に盗み聞きして連絡とろうとしなくていいから。 「次はァ~。なんだっけ、あ、○○駅ィ~」  おい、天の声。なんだっけじゃねぇよ。お前何年この仕事やってんだ。忘れるな。駅名忘れんな。 「あ、アタシ降りなきゃだ。っつーわけで、またな。おばさん」  にっと笑って手を振るヤンキーちゃん。あれ、なんだろう。後光が見える。 「はい、また会いましょう。姉さん」  いや、姉さんじゃねえよ、おばさん。何心酔しちゃってんの? 相手、女子高生だよ? ヤンキーだよ? 大丈夫? 「あぁ、素晴らしいわ……」  そんなにでしたか奥さん。アイドルにのめり込む女子ですかアナタ。満足そうで何よりです。良さは分からないけど。 「あぁ、よかった。降りてくれた。何事もなくてよかったぁ~」  うるさい、天の声。心の声、漏れてるって。いっそ仕事、首になればいいのに。 「あら? これ、何?」  さっきの主婦さん、何拾ってんの? フラグ? フラグ立てたいの? これ、あれでしょ? さっきの女子高生の落とし物でしょ? え、関わる感じのフラグじゃん。どうすんの。天の声さん今度こそ心臓止まるんじゃないの。 「主婦の方、それ、窓の外にぽいって……」  天の声さん、それはあんまりだ。主婦の人も冷たい視線を監視カメラに送っている。 「……あははっ。じょーだんですよじょーだん。あはははは」  乾いた天の声さんの笑い声が響く。ああ、これはきっと軽蔑という感情なんだろうな……。 「こちらで、一時お預かりしますのでェ……。持ってきていただけますか……ふわぁ」  あくびすんなおい。眠いのかよ。しかも持ってこさせるのかよ。主婦さん、律儀に持っていかなくていいよ。取りに来いっていえば、あいつ来るから。 「ぐがー」  いや、ガチで寝るのかあんた。マイク入ってるし、今度こそ仕事なくなるぞ。  その後、マイクを通して何かを殴る音と、天の声さんの悲鳴が聞こえたのは、きっと気のせいじゃない。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加